教室レポート

安藤忠雄建築 直島編

 その次に訪れたのは2004年に完成した地中美術館を拝見するためです。駐車場横のチケットセンターでチケットを購入し道路の向こう側の坂を上っていくと入口があります。その名の通り建物は地中にあり全体像はわかりません。迷路のような通路を先に進むと靴をスリッパに履き替えるベンチがあり、その奥がクロード・モネの睡蓮の部屋になっています。この時には現在5点ある絵画の1点がなく、監視の人になぜないのか尋ねた記憶があります。この部屋も含め地中美術館は3人の作家の作品を恒久設置しています.このような美術館の先駆けは岡山県奈義町に磯崎新氏が設計した「奈義町現代美術館」でしょう。1994年に 開館した当時、このような美術館が成り立つのだろうかと心配したぐらいです。この美術館も3人の作家(荒川修作、宮脇愛子、岡崎和郎)の作品が設置されています。この3人の作家の選定過程はよくわかりませんが、磯崎氏と気心の通じた人であったと思われます。この美術館の展示については詳しく触れませんが、当時磯崎氏は「第三世代の美術館」と位置づけていました。第一世代とは王侯貴族のコレクションを公開する目的で19世紀前半に生まれた美術館で、主に古代美術や額縁絵画など世界各地からの収集品のための倉庫ともいうべきもので、ルーブル美術館や大英博物館などがこれにあたります。第二世代とは印象派以降のモダニズム美術を展示するための美術館で、可変性を有した床と壁面があればいいという今日一般的にみられる箱としての美術館。それに対して第三世代は、60年代以降の現代美術がものの配置される空間そのものを作品化する考えで作られているものも多く、そういった作品を展示するためには作品があって美術館が構想されるというものでした。話を地中美術館に戻しますが、クロード・モネ以外はジェームズ・タレルとウォルター・デ・マリアです。二人とも建築と一体になった作品空間を提示しています。タレルは光そのものを作品化し、その空間に足を踏み入れると不思議な感覚に陥ります。その暗い空間から屋外に出るとコンクリートの壁で囲われた青い空が見えます。よく晴れた青い空という意味では瀬戸内は最適な立地といえるでしょう。この切り取られた空は1976年作の「住吉の長屋」の中庭の空であったり、2024年作の「銀座の別荘」の最上階の円形に切り取られた空にもつながるものでしょう。安藤さんの作品ではありませんが、京都祇園にある美術館「何必館」の最上階にも円形の空があり、こちらは庇の延長といったところでしょうか。三人目のデ・マリアの作品は、階段状の大きな空間の中央あたりに直径2,2mの石の球体があり、この球は動かないのでしょうが非常に不安な気持ちにさせられます。作品とは関係ない話ですが、この大空間は非常に音が反響しまして、私語をされる方が監視の方から注意される光景をよく目にします。そのあと海を眺めることのできる唯一の場所であるカフェで一休憩。

 次に直島で安藤建築を拝見するのは、2010年の「第1回瀬戸内国際芸術祭」の開催時です。この芸術祭は今では海外の方もたくさん訪れ有名になっていますが、大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ総合ディレクターを2000年から務める北川フラム氏をこちらでも総合ディレクターに、また総合プロデューサーに福武聰一郎ベネッセホールディングス会長が就任し開催されることになりました。安藤さんが37年前に直島の再生に動き出されたのはこの福武氏の依頼によるものです。この時はフェリーの着く宮浦港でレンタサイクルを借りて島を回りました。先ず地中美術館に向かったのですが、チケットセンターにはバスが到着した後とみえて長蛇の列ができていました。今回は道案内も引き受けていましたのでもう一度地中美術館に入りましたが、モネの睡蓮はすべてそろっていました。そのあと少し山道を走り、この年にオープンした「李禹煥美術館」を訪れました。ここも安藤さん特有のコンクリートの壁を回り込んで入口があるという配置がされていました。それとは対照的に1999年に完成した「南寺」は木造でした。この建物にも先程のジェームズ・タレルの作品が展示されているのですが、この本村(ほんむら)地区は「家プロジェクト」が展開されています。この地固有の家屋を一人のアーティストが使用し、建築家と協力して作品化するものです。千住博、須田悦弘、宮島達男、大竹伸朗、内藤礼、杉本博司など多くの作家が関わっています。3年後の「第2回瀬戸内国際芸術祭」の開催時にも直島に渡り、2013年に完成した「ANDO MUSEUM」を拝見しました。先程の「南寺」近くの古い民家の中にコンクリートの空間を作っています。フランスのパリにある「ブルス・ドゥ・コメルス」は18世紀後半に穀物取引所として建てられ、19世紀末に改修された巨大なドーム空間ですが、安藤さんは内部にコンクリートの壁を作り現代美術館として2021年に再生しています。規模、コンセプトも全然異なりますが、直島の民家にも安藤さんの設計スタイルが凝縮されています。昨年の5月には「直島新美術館」がオープンしているのですが、こちらはまだ拝見していません。ここまで直島の安藤建築を述べてきましたが、直島以外にもまだ何点かの建物を訪れており、また次の機会にお話しさせて頂きます。写真は李禹煥美術館とベネッセハウスのビーチにある草間彌生作の黄カボチャです。