庭の作品 その15
前回宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のお話をしましたが、以前から気になっていたのが「銀河鉄道の夜」で、童話と言いながら何度読み直しても途中で挫折して、何の話だったのか頭にイメージが湧いてこなかったのです。銀河鉄道という言葉を聞くと宇宙を夢の汽車で冒険し、何か未知の世界の探検物語のようにわくわく感があると思っていたのですが、実際のところ話は幾重にも複雑です。第一に、宮沢賢治自身自認しているように「サイエンティスト」の一面をもち、中学時代から植物や鉱物の採集に熱中していたり、盛岡高等農林学校で地質・土壌・肥料について研究しながら、土性調査にも従事していました。そのため、空想の天の川や天の野原の表現が元素や鉱物、植物の具体的な名前で彩られ、さらにはどんなものを指しているのかわからないような表現もあります。また、白鳥停車場に停車中に、プリオシン海岸で発掘している大学士に、掘り出された獣の骨を「証明するに要るんだ。ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、百二十万年ぐらい前にできたという証拠もいろいろあるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは風か水や、がらんとした空かに見えやしないかということなのだ。」と語らせています。第二に、ジョバンニは夢の中で悲しいという思いを7回していますが、賢治の信じる法華経では死の悲しみをそのまま受け入れています。そのため汽車の乗客が死者であることが悲しみにつながっているように思います。車室の中の旅人たちはみな「ハレルヤ、ハレルヤ」と北の十字の方に祈り、サウザンクロスでは多くの人が下車し汽車の中は半分以上空いてしまいました。死者がこの世から神さまに召され天上へ行くための乗り物だったのです。また具体的に、1912年4月14~15日に沈没事故を起こしたタイタニック号の乗客が3人(六つばかりの男の子タダシ、十二ばかりの女の子かおる、大学士の青年)汽車に乗ってきます。この事故は全長269,1mで当時世界最大の客船であったタイタニック号がイギリス・サウサンプトンを発ちアメリカ合衆国・ニューヨークに向かう航海中の4日目に北大西洋で起こした海難事故です。14日の23時40分に氷山に衝突し15日2時20分に沈没しています。乗客・乗員合わせて2224人のうち1514人が亡くなり710人が生還しています。(ウィキペディア) さらに、主人公ジョバンニと共に銀河鉄道の旅を続ける親友のカンパネルラも友達のザネリを助けるために川で溺れてすでに死んでいます。このように死者との会話が作品の中心にあります。今回はここまでにしておきます。
今回の写真は、この夏何日も雨が降らず枯れたトクサの前の岩に置かれた青白磁の作品です。庭の作品その14で紹介させて頂いた作品を作っていた頃、自然に割れたものの力強さにひかれ、完成した作品に切れ目を入れていくとどうなるのか、自然に出来上がる形に興味を持ちました。しかし積極的にこのテーマと取り組むにはもう少し時間を要しました。2006年コンクリート造りのモダンな建築の今はなき岡山のギャラリーで発表させて頂いた、下の写真の作品ですが、少し複雑にロクロで引き上げ、重力に耐えられる限界を1ヶ所で超えてしまうと崩壊が始まり、どんどん形が変わっていきます。どこまで変わっていくかは動きが止まるまでわかりません。計画的に作り上げてしまうのではなく自然に任せた形をテーマにしていた頃の作品です。